ある地下鉄のコンコースにパタパタと不器用に飛び回る昆虫がいた。
通行人の多くは--特に女性は--気持ち悪そうに避けながら歩いていた。
私も、ん、ガが迷い込んだな、と一瞬思った。しかし、違う。確かに飛び方はガのそのものだ。でも、違う。何かが違う。上手く表現できないが、ガではない。こんな大きさと形のガは知らない。
だとすればチョウだ。
この飛び方をするチョウ・・・もしや、と思い近づいた。素速く、しかしぎこちなく飛び回るその昆虫が僅かに開いた羽の間からちらりと見えるオレンジ。
ひょっとして・・・
私はゆっくり明りのある壁にそのチョウを追い詰めた。バッグにはデジカメが入っている。撮るが先か、捕るが先か。
あれだけ動き回るチョウを撮るのは 難しい、しかし無理して捕れなかったら撮った方がよかったということになるだろう。
しばし迷った。数十秒迷った。しかし、結局欲望に負けた。独占欲だ。
壁の角へ追い込み、天井と壁の中間を上下に行き来するチョウの行動をじっと見つめ、狙いを定めた。
捕虫網がほしい。しかし今あるのは自分の手だけだ。
にらみ合うこと5分、チョウの動きを見ながら両手で素速く挟んだ。 やった! 生まれて初めてのクロコノマチョウだ!
温暖化の影響を受け、愛知県でもしばしば見つかるようになってきたことは知っていた。しかし、なんだかんだ言っても、ここは名古屋でもほほ都心部だ。
近くの公園かどこかからはぐれ、暗くなって、正の走光性で明るい地下鉄へ潜り込んできたのだろうか。
採集用具を持ち合わせていない私は、片手でチョウの体をつまみ、もう一方でバッグからティッシュペーパーを出し、三角紙もどきに折りたたみ、その中にチョウ包み込んだ。
帰宅後すぐに冷凍庫へ入れた。時間のある時に解凍し、標本にしよう。
10年以上昆虫標本を作っていないので段ボールから道具を出してこなければならないが、それもいいだろう。
冷凍庫から出してきたクロコノマチョウ(♀) ビロードのような表面は人気の的です。
美しい(?)標本になるのはいつこのことか?
※以前にも書きましたが、採集によって絶滅した昆虫は知られていません。昆虫の種と数の減少は主として開発や農薬散布等に伴うものです。
昆虫愛好家の多くは同時に自然保護を訴えています。
追記(10月29日):今日の夜、あるミーティングがあり、そこに参加していた「専門科」に聞いたら「この辺ではもう普通種になってしまった」そうです。ああ、恐るべき温暖化!
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